歯科矯正(歯列矯正)で高額療養費制度は使える?利用条件や申請方法も紹介
大人の歯列矯正には、原則として高額療養費制度が使えません。しかし、発音や咀嚼などの機能回復が目的であれば、高額療養費制度が利用できます。
高額療養費制度を利用する場合、世帯合算や多数回該当の仕組みにより、さらに費用負担を減らすことも可能です。
歯列矯正には比較的高額な治療費が必要なため、少しでも費用を安く抑えたい方は多いでしょう。
この記事では少しでも医療費の負担を減らせるよう、高額療養費制度の仕組みについて紹介します。利用条件や上限額などを知って活用できるよう準備してください。
関連記事:歯列矯正の医療費控除が適用される条件とは?手続きのやり方や必要なものを紹介
歯列矯正で高額療養費制度は一部利用できる
高額療養費制度は、健康保険法に基づいて設けられた給付制度の1つです。同じ月の1日から月末までに支払った医療費が自己負担限度額を超えた場合、所定の手続きを行うことで払い戻しを受けられます。
病気やケガで何らかの治療を受けた際に、健康保険を利用すると窓口での支払いが1割〜3割で済みます。しかし、大けがをしたり入院して長期の治療を受けたりすると、多額の医療費が必要となるケースが多いです。
その際に高額療養費制度を利用すると、自己負担額を軽減できます。高額療養費制度は公的医療保険制度の一種のため、各保険に加入している被保険者なら誰でも利用可能です。
ただし、歯列矯正をはじめとする審美目的の治療に関しては、原則として高額療養費制度が適用されません。
大人は機能回復が目的の治療の場合に利用可能
大人の歯列矯正は一般的に審美目的で行う(見た目を良くする)治療とみなされるため、高額療養費制度は適用されず、治療費や薬代などは全額自己負担が原則です。
ただし、噛み合わせなどに重大な問題があり、日常的な会話や食事などに支障をきたす場合は例外です。発音や咀嚼など機能を回復するために歯列矯正を行う場合は、高額療養費制度が適用されます。
機能回復のために歯列矯正が必要か判断するのは医師のため、矯正治療前のカウンセリング時に確認するのがおすすめです。また、高額療養費制度の適用を受けるためには、医師に診断書を書いてもらう必要があります。
子どもは正しい発育のために必要な矯正なら利用可能
子どもの歯並びが悪いと見た目が良くない上、身体にも悪影響をおよぼします。歯並びが悪いと歯磨きの際に磨き残しが生じ、虫歯や歯周病の発症リスクが増加します。
近年になり歯周病が心臓病などの循環器系疾患や、糖尿病などの生活習慣病に関与するとわかってきました。
噛み合わせが悪いと咀嚼に影響が出るほか、首こりや肩こり、顎関節症などの発症リスクも増加します。子どもの歯列矯正は正しい発育のために必要との観点から、高額療養費制度が利用できます。
高額療養費制度の対象となる歯列矯正の費用項目は何がある?
高額療養費制度の対象となる歯列矯正の主な費用項目は以下の通りです。
- 虫歯や歯周病の治療費
- 医薬品代など
- ポーセレンを用いた歯列矯正の費用
- 子供の歯列矯正の費用
高額療養費制度の対象となるのは、原則として健康保険が適用される医療費の自己負担分です。歯列矯正の際には事前に虫歯や歯周病の治療が必要となるケースがありますが、虫歯や歯周病治療は審美目的ではないため高額療養費制度が利用できます。
治療にともない痛み止めなどが必要な場合、医療機関が発行した処方箋に基づいて医薬品を受け取れば高額療養費制度の対象です。
ポーセレンなどのセラミックは歯の治療に一般的に使用されているため、高額療養費制度の対象になると考えられます。
子供の歯列矯正に関しては高額療養費制度の対象です。歯の治療にかかる費用をデンタルローンやクレジットカードで支払う場合、金利および手数料を除く支払い部分に関しては高額療養費制度の対象となります。
一方で先進医療にかかる費用や交通費などは、高額療養費制度の対象にはなりません。
歯列矯正で高額療養費制度を利用できる金額はいくらまで?
高額療養費制度はそもそも、医療機関や薬局などで支払った額が1ヶ月(該当付きの1日から末日まで)で上限を超えた際に適用されます。
上限額は年齢や所得により異なるため、70歳以上と69歳以下に分けて紹介します。
70歳以上の方の上限額
70歳以上の方が高額療養費制度を利用する場合、限度額は所得別に以下の通りです。
適用区分 | 外来(個人ごと) | ひと月の上限額(世帯ごと) | |
現役並み | ・年収約1,160万円~
・標報83万円以上 ・課税所得690万円以上 |
252,600円+(医療費-842,000)×1% | |
・年収約770万円~約1,160万円
・標報53万円以上 ・課税所得380万円以上 |
167,400円+(医療費-558,000)×1% | ||
・年収約370万円~約770万円
・標報28万円以上 ・課税所得145万円以上 |
80,100円+(医療費-267,000)×1% | ||
一般 | ・年収156万円~約370万円
・標報26万円以下 ・課税所得145万円未満等 |
18,000円
(年14万4千円) |
57,600円 |
住民税非課税等 | Ⅱ 住民税非課税世帯 | 8,000円 | 24,600円 |
Ⅰ 住民税非課税世帯 (年金収入80万円以下など) | 15,000円 |
69歳以下の方の上限額
69歳以下の方が高額療養費制度を利用する場合、限度額は所得別に以下の通りです。
適用区分 | ひと月の上限額(世帯ごと) |
・年収約1,160万円~
・健保:標報83万円以上 ・国保:旧ただし書き所得901万円超 |
252,600円+(医療費-842,000)×1% |
・年収約770~約1,160万円
・健保:標報53万~79万円 ・国保:旧ただし書き所得600万~901万円 |
167,400円+(医療費-558,000)×1% |
・年収約370~約770万円
・健保:標報28万~50万円 ・国保:旧ただし書き所得210万~600万円 |
80,100円+(医療費-267,000)×1% |
・年収約370万円未満
・健保:標報26万円以下 ・国保:旧ただし書き所得210万円以下 |
57,600円 |
住民税非課税者 | 35,400円 |
歯列矯正にかかった高額療養費の支給申請のやり方
歯列矯正にかかった高額療養費の支給申請をするタイミングは事前・事後の2種類があります。事後に申請をする場合、まず自分が加入している公的医療保険を確認してください。
該当する公的医療保険(健康保険組合や協会けんぽなど)に高額療養費の支給申請書を提出、もしくは郵送すると払い戻しが受けられます。
事前に手続きする場合、限度額適用認定証を利用するのが一般的です。加入している公的医療保険に申請すると、限度額適用認定証が交付されます。病院の窓口で限度額適用認定証を提示すると、支払いが自己負担限度額で済みます。
加入している公的医療保険によっては、高額療養費が自動的に自分の口座に振り込まれたり、支給申請を進められたりするケースもあります。
公的医療保険によっては病院などで発行される領収書が必要となるため、必ず取っておいてください。
歯列矯正にかかった高額療養費の払い戻しの流れ
歯列矯正にかかった高額療養費の払い戻しの流れは以下の通りです。
- 医療機関で自己負担分(1割~3割)の医療費を支払う
- 必要書類を加入している公的医療保険の運営機関に提出する
- 自己負担の上限額から超過した分の払い戻しを受ける
高額療養費制度を利用する場合、まずは医療機関の窓口で自己負担分(1〜3割)の医療費を支払ってください。その後、病院が発行する領収書などの必要書類を、自分が加入している公的医療保険の運営機関に提出します。
高額療養費制度の要件を満たしていると判断されると、超過分に関する払い戻しが行われます。ただし、払い戻しが行われるまでに3ヶ月以上かかるケースも珍しくありません。
払い戻しが受けられるまでは超過分も自分で建て替える必要があるため、経済的な余裕がない方は限度額適用認定証を発行してもらい、事前に手続きするのがおすすめです。
高額療養費制度から歯列矯正の費用負担をより減らせる仕組み
高額療養費制度から歯列矯正の費用負担をさらに減らせる2つの仕組みがあります。
- 世帯合算
- 多数回該当
世帯合算
家族で同一の公的医療保険制度に加入している場合、治療費を合算して申請すると超過分の払い戻しが受けられます。例えば年収約370万円〜770万円の夫婦の場合、1ヶ月あたりの医療費が80,100円を超えると高額療養費の支給対象です。
例えば夫が何らかの病気やけがの治療で、1ヶ月に70,000円の医療費を支払っているとします。その場合、夫だけの医療費では高額療養費制度の対象にはなりません。
しかし、同じ月に同一の公的医療保険制度に加入している妻が30,000円の医療費を支払っている場合、合算して80,100円を超えるため、高額療養費の支給対象となります。
ただし、70歳以上の方は自己負担額をすべて合算できますが、69歳以下の方は21,000円以上の自己負担のみが合算対象です。
多数回該当
高額療養費制度では、多数回該当の仕組みによりさらに自己負担が減らせる可能性があります。直近の12ヶ月で3回以上高額療養費の支給を受けている方は、4回目以降の上限額が引き下げられます。
例えば70歳以上の方で所得区分が現役並みの方は、通常だと本来の負担上限額が【80,100円+(医療費-267,000円)×1%】です。しかし、多数回該当の場合は負担上限額が44,000円に引き下げられます。
69歳以下で所得区分が年収約770〜約1,160万円 の方は、通常だと本来の負担上限額が【167,400円+(医療費-558,000)×1%】です。しかし、多数回該当の場合は負担上限額が83,400円に引き下げられます。
多数回該当は世帯合算で限度額を超えた際にも適用されます。
高額療養費と医療費控除の違いとは?
高額療養費と勘違いされやすい制度の1つが医療費控除です。両者の大きな違いは高額療養費制度が医療費の払い戻しであるのに対し、医療費控除が税金の控除である点です。
医療費控除は1年間(1月1日〜12月31日)の医療費が基準額を超えた際に、所得税額が軽減される制度です。1年間に10万円以上の医療費を支払った場合、多くのケースで医療費控除の対象となります。
また、高額療養費制度は基本的に保険適用となる医療費についてのみ対象ですが、医療費控除は保険適用外の医療費も含まれます。高額療養費は医療保険者に申請し、医療費控除は税務署に確定申告する点も違いの1つです。
歯列矯正で高額療養費制度を活用して医療費の負担を減らしましょう
大人の歯列矯正には原則として健康保険が使えませんが、発音や咀嚼などの機能回復が目的であれば健康保険、および高額療養費制度が適用されます。
高額療養費制度を利用する場合、世帯合算や複数回で該当する仕組みにより、さらに費用負担を減らすことも可能です。
歯列矯正に関して詳しく知りたい方は、「歯の総合予約サイト~BEAUTEETH」のショート動画を参考にして、適したクリニックを探してしてみてください。